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フジロック女性一人旅の体験記。日常に疲れた私が見つけた光

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フジロック 体験  女性 一人旅

ふと、全部投げ出してどこか遠くへ行きたくなる。
そんな瞬間に、緑の山々に抱かれた「フジロック」の光景が、頭をよぎることはありませんか。

日常から離れて、大好きな音楽に身をゆだねる最高の体験。
しかし、いざ一人旅となると、「女性一人でも楽しめるのかな?」「寂しくないかな?」と、急に心細くなってしまう気持ち、すごくよく分かります。

この記事は、かつての私とまったく同じように、仕事と日々に疲れ果てた一人の女性が、勇気を出してフジロックへの一人旅へ出た、そのリアルな記録です。

これは単なる音楽フェスのレポートではありません。
衝動的な逃避行の先で見つけた、かけがえのない時間と自分自身を取り戻すまでの物語。もしあなたが少しでも迷っているなら、この体験談が、あなたの背中をそっと押すきっかけになるかもしれません。

記事のポイント

  • テント泊以外に、ホテル泊という快適で安心な選択肢があること
  • 一人の時間が、音楽や自然と深く向き合う特別な体験になること
  • 誰にも気を遣うことなく、自分のペースで自由に過ごせる快適さ
  • 日常への活力を取り戻す、自己回復と癒やしの旅になること

プロローグ:私は、逃げることにした。

フジロック-体験-女性 一人旅
月曜の朝、午前7時30分。スマートフォンのアラームが、けたたましく鳴り響く。重い瞼をこじ開けると、そこには見慣れた天井。そして、すぐに現実が津波のように押し寄せてくる。今日も、あの満員電車に乗って、会社に行かなければならない。

社会人3年目、25歳。入社当時に抱いていた微かな希望や情熱は、日々の業務と人間関係の中で、少しずつ、しかし確実にすり減っていた。終わらない残業、積み重なるタスク、上司からのプレッシャー。そして、休日ですら鳴りやまない仕事用のスマートフォンの通知音。私はいつしか、心から笑うことを忘れ、常に何かに追われ、何かに怯えるようになっていた。

「…もう、無理かもしれない」

ある朝、満員電車に揺られながら、ガラス窓に映る自分の顔を見た。生気がなく、疲れ果てた表情。私は、こんな顔をしていたのか。涙がこみ上げてきたけど、ここで泣くわけにはいかない。唇を固く噛みしめ、ただ息を潜める。まるで、息の仕方を忘れてしまった金魚のように。

その日の昼休みだった。無心でスマートフォンの画面をスクロールしていた私の目に、ある言葉が飛び込んできた。

「FUJI ROCK FESTIVAL’24」

緑の山々を背景にした、楽しそうな人々の写真。それは、今の私のいる灰色で無機質な世界とは、あまりにもかけ離れた光景だった。

音楽は、好きだった。学生の頃は、ライブにもよく行っていた。でも、社会人になってからは、そんな時間も気力もなかった。誰かを誘って、スケジュールを調整して…そんなエネルギーは、今の私には残っていない。

「…一人で、行ってみようか」

それは、ほとんど衝動だった。計画なんてない。ただ、この息苦しい日常から、一秒でも早く逃げ出したかった。会社のデスクで、震える指でチケットサイトを開く。3日通し券。そして、宿泊先を探していると、「苗場プリンスホテル」の文字が目に入った。普通なら、絶対に選ばない選択肢だ。でも、今の私には、それが必要な気がした。

「これくらい、いいよね。自分への、ご褒美じゃなくて…治療費、みたいなものだ」

自嘲気味に呟きながら、予約ボタンをクリックした。その瞬間、固く閉ざされていた心の蓋が、少しだけ開いたような気がした。

翌日、私は上司に休暇届を出した。「私用で」とだけ告げると、上司は少し嫌な顔をしたが、何も言わずに判を押してくれた。その足で駅ビルのアウトドアショップに向かい、最低限の装備を揃える。リュック、防水のジャケット、歩きやすいトレッキングシューズ。荷造りをしている間、不思議と心は穏やかだった。これは逃避行だ。でも、ただの逃避じゃない。失くしてしまった自分自身のかけらを、探しに行く旅なんだ。そう思うと、少しだけ、前に進める気がした。

1日目:静寂の開幕、私だけの祝祭

フジロック-体験-女性 一人旅
フジロック初日。私は、一人で東京駅の新幹線のホームに立っていた。周りには、大きな荷物を持ったグループ客がたくさんいて、楽しそうな笑い声が響いている。一瞬、孤独が胸をよぎる。でも、すぐにその感情を振り払った。私は、自由なのだ。誰に気を遣う必要もない。

新幹線が走り出すと、車窓の景色が目まぐるしく変わっていく。ビル群が遠ざかり、田園風景が広がり、やがて深い緑が車窓を埋め尽くす。越後湯沢駅に降り立つと、都会の熱気とは全く違う、ひんやりと湿った山の空気が肺を満たした。ああ、空気が美味しい。それだけで、少し救われた気持ちになった。

シャトルバスに揺られ、ついに会場に到着。ゲート前で記念撮影をするグループを横目に、私は淡々とリストバンド交換所へ向かい、腕に3日間の自由の証を巻いた。

まず向かったのは、ホテルだ。会場直結の苗場プリンスホテルは、まさに別天地だった。部屋のドアを開け、窓のカーテンを開けると、眼下に広大なグリーンステージが見えた。遠くで鳴っているサウンドチェックの音が、心地よいBGMのように聞こえる。私は、大きなバックパックを床に放り出し、そのままベッドに倒れ込んだ。ふかふかのシーツが、疲れた体を優しく包み込む。

「…来て、よかった」

心の底から、そう思った。この景色のために、この瞬間のために、私はここまで来たんだ。

しばらく休憩した後、小さなサコッシュだけを肩にかけ、私は再び会場へと足を踏み出した。身軽さが、こんなにも心を自由にしてくれるなんて。誰に「次、どこ行く?」と聞く必要もない。自分の足が、心が、向かう方へ。

まずは腹ごしらえだ。オアシスエリアをぶらつき、一人でも気兼ねなく注文できそうなケバブ屋台に並ぶ。受け取ったケバブと、プラスチックカップに注がれた冷たいビール。近くのベンチに腰掛け、一口飲む。

「…っはー…最高だ…」

思わず、声が漏れた。喉を通り過ぎるビールの苦みと爽快感が、心の中に溜まっていた澱を洗い流していくようだった。周りの喧騒も、今は心地よいBGMだ。

お腹が満たされると、私は宛てもなく歩き始めた。ふらりと立ち寄ったヘブン・ステージでは、渋さ知らズオーケストラが、カオスとしか言いようのないエネルギーを爆発させていた。あまりの自由さに、圧倒され、そして、なぜか笑いがこみ上げてきた。そうだ、これでいいんだ。もっと、自由でいいんだ。

夕暮れ時、ホワイトステージから聴こえてきた強烈なグルーヴに足を止めた。GHOST-NOTE。最初は、ステージから少し離れた場所で遠慮がちに体を揺らしていた。でも、ドラムとパーカッションが織りなす圧倒的なリズムの波に、私の体は抗えなかった。気づけば、人混みの中に分け入り、周りの人たちと同じように、無心で体を揺らしていた。汗が噴き出し、息が上がる。でも、苦しくない。むしろ、生きていることを実感する。ここには、会社の私なんていない。ただ、音楽と一つになる私がいるだけだ。

初日のヘッドライナー、The Killers。私は、グリーンステージの後方、少し小高くなった丘の上の芝生に腰を下ろした。眼下に広がる、無数の光と、巨大な音の渦。大合唱が巻き起こるのを、少し離れた場所から眺める。その輪の中にいないことに、寂しさはなかった。むしろ、この美しい光景の、静かな目撃者でいられることが、心地よかった。

終演後、人の波が引くのを待って、私はゆっくりとホテルへの帰路についた。部屋に戻り、シャワーで今日の汗をすべて洗い流す。清潔なパジャマに着替え、ふかふかのベッドに体を横たえる。SNSを開く気にもならない。スマートフォンの電源を切り、目を閉じる。遠くで鳴り響く音楽を子守唄に、私は深い眠りに落ちていった。日常からの、完全な遮断。それは、私が何よりも求めていたものだった。

2日目:森との対話、魂を揺さぶった音楽

フジロック-体験-女性 一人旅
鳥の声と、遠くから聞こえるリハーサルの音で目が覚めた。時間に追われることのない、穏やかな朝。ホテルのレストランで、ゆっくりと朝食を摂る。窓の外の緑を眺めながら飲むコーヒーは、格別に美味しかった。

「今日は、森を歩こう」

そう決めて、私は会場の奥へと向かった。フジロックのもう一つの主役、ボードウォーク。木々に囲まれた遊歩道を、一歩一歩、踏みしめるように歩く。木漏れ日がキラキラと地面に模様を描き、川のせせらぎが耳に優しい。木の匂い、土の匂い、湿った空気の匂い。都会で麻痺していた五感が、ゆっくりと目覚めていくのを感じた。

森のあちこちに隠れている「ゴンちゃん」を探したり、アーティストが手掛けたアート作品を眺めたり。それは、誰かといたら見過ごしてしまっていたかもしれない、ささやかな発見の連続だった。

やがて、フィールド・オブ・ヘブンに辿り着いた。その名の通り、このエリアには独特のピースフルな空気が流れている。オーガニックなフードを提供する屋台、手作りのアクセサリーを売る店、そして、ゆったりとした時間が流れるステージ。ここで聴いたAngie Mcmahonの伸びやかな歌声は、まるで森の声そのもののようで、私のささくれた心に優しく染み渡った。

そして、この旅の目的の一つであった、Beth Gibbonsのステージへ。Portishead時代から、彼女の歌声は私の心の奥深くにある、誰にも見せたことのない柔らかい場所を、いつもそっと撫でてくれるようだった。

始まったライブは、想像を絶するものだった。それは、単なる歌ではない。光と影、希望と絶望、聖と俗。人間の感情のすべてが入り混じった、魂の叫びそのものだった。不安定に揺らめく歌声が、美しいのにどこか不穏なメロディに乗って、私の心を鷲掴みにする。私は、ただ立ち尽くし、その音楽の世界に飲み込まれていた。隣で同じように、微動だにせずステージを見つめている人。そのまた隣で、静かに涙を流している人。私たちは言葉を交わすことはないけれど、きっと同じものを受け取っている。その確信が、孤独だった私の心を温めてくれた。

陽が傾き、空がオレンジ色に染まる頃、私はホワイトステージにいた。この旅の、最大の目的地。SAMPHAのライブを観るために。

始まる前から、ステージには何か神聖な空気が漂っていた。そして、彼がステージに現れ、最初の音が鳴った瞬間、私の周りの世界は一変した。

彼の音楽は、ジャンルなんて言葉で説明することが、ひどく陳腐に思えるほど、新しくて、美しかった。人力とは思えないほど高速で複雑なドラムンベースのビートが、肉体を激しく揺さぶる。その上に、天から降り注ぐような、あまりにも幻想的で美しいピアノと歌声が重なる。激しいのに、穏やか。破壊的なのに、優しい。

気づけば、私の頬を涙が伝っていた。それは、悲しい涙じゃない。感動とも少し違う。固く凍りついていた私の魂が、彼の音楽によってゆっくりと溶かされ、浄化されていくような、温かい涙だった。

「私は、これを聴くために、ここまで来たんだ」

心の底から、そう思った。この瞬間のために、私はあの息苦しい日常を耐え、勇気を出して一歩を踏み出したんだ。

ライブが終わっても、私はしばらくその場から動くことができなかった。感動の余韻で、胸がいっぱいだった。誰かとこの気持ちを分かち合いたい、とは思わなかった。このどうしようもなく個人的で、深く、尊い感動は、誰にも渡したくない、私だけの宝物だ。

3日目、そして明日へ:私はもう、大丈夫。

フジロック-体験-女性 一人旅
最終日の朝。体には3日間の疲労が蓄積している。でも、心は信じられないくらい、軽やかだった。初日にこの場所に来た自分とは、別人になったような気さえする。

「今日は、何にも決めないで過ごそう」

私は、ただ風の吹くまま、音の鳴る方へ、歩くことにした。

グリーンステージの広大な芝生に寝転がって、RUFUS WAINWRIGHTの弾き語りを聴く。彼のピアノと歌声が、苗場の雄大な自然に溶けていく。なんて贅沢な時間だろう。

お昼は、苗場食堂でとろろ飯を食べた。周りの人たちの楽しそうな笑顔を見ているだけで、こちらの心まで温かくなる。

午後は、ホワイトステージでThe Jesus And Mary Chainのライブを観た。爆音のギターノイズが、まるで嵐のように全身を打ちつける。それは不思議な浄化作用があって、心の中にこびりついていた最後の澱(おり)まで、根こそぎ洗い流してくれるようだった。

そして、フジロック最後のアクト、Noel Gallagher’s High Flying Birds。私はまた、グリーンステージ後方の芝生に座った。一人で、このお祭りの終わりを見届ける。

アンコールで、あの曲が始まった。「Don’t Look Back In Anger」。

初日は遠くから眺めていた大合唱の渦。でも、今の私は、その渦の中にいた。周りの人たちと一緒に、声を枯らして歌った。「過去を振り返るな、怒りの中で」。まるで、今の私自身に語りかけられているようだった。そうだ、もう振り返るのはやめよう。私は、前を向くんだ。

すべての演奏が終わり、花火が打ち上がった。拍手と歓声の中、人々が少しずつ帰り支度を始める。私は、その光景を、静けさを取り戻し始めた会場を、目に焼き付けるように、じっと見つめていた。

ホテルに戻り、荷造りをする。来た時よりも、バックパックが少しだけ軽くなったように感じた。心の中の重い荷物を、この苗場の森に置いていくことができたからかもしれない。

帰りの新幹線の中、私は窓の外を流れる景色を見ながら、この3日間を振り返っていた。私は、確かに日常から「逃げて」きた。でも、この場所で見つけたのは、現実逃避の先にある安易な楽園ではなかった。

それは、自分自身と静かに対話するための、時間と空間。
それは、魂を揺さぶり、生きる力を与えてくれる、本物の音楽。
そしてそれは、明日からまた歩き出すための、小さな、だけど確かな勇気だった。

月曜日の朝。私は、いつもの満員電車に乗っていた。でも、見える景色は、先週とは少しだけ違って見えた。耳に着けたイヤホンからは、フジロックで出会ったSAMPHAの曲が流れている。バッグの中の、少し汚れたリストバンドがお守りのように感じられた。

会社のデスクについても、もう心はざわつかなかった。大丈夫。私は、私だ。あの3日間が、私にそう教えてくれた。

これは、逃避行なんかじゃない。自分自身を解放し、取り戻すための、私だけの、聖なる旅だったのだ。

そして私は、きっと来年も、また一人で、あの苗場の森に帰ってくるだろう。新しい自分に会うために。

総括:フジロック 体験 女性 一人旅

仕事や日常に疲れ果てた末の、衝動的な逃避行であった

25歳、誰にも気を遣わない一人参加の自由さは想像以上に心地よい

テント泊が不安なら、会場直結の苗場プリンスホテルという選択肢がある

自分のペースで好きな音楽を、好きな場所から心ゆくまで鑑賞できる

誰かといたら見過ごすような、森の中の小さな発見に心が和む

ボードウォークの散策は、自然と向き合い自分自身と対話する時間

都会で麻痺した五感が、森の匂いや川のせせらぎでゆっくりと蘇る

一人だからこそ音楽と深く向き合い、魂が浄化されるような体験がある

周りの目を気にすることなく、音楽に没入して涙を流せる

この感動は誰にも渡したくない、自分だけの宝物だと感じられる

ヘッドライナーは後方の芝生から、静かな目撃者として楽しむのも良い

その一方で、衝動的に人混みへ分け入り無心で踊ることも自由だ

疲れたらすぐに快適なホテルの部屋へ戻り、体を休められる安心感

これは現実逃避ではなく、失くした自分を取り戻すための聖なる旅になる

明日からまた歩き出すための、小さな、しかし確かな勇気を得られる

最後の大合唱では、一人でいても自然と会場の一体感の輪に入れる

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